「営業はするな」「社長は現場を去れ」。地方中小企業が生存競争を勝ち抜くための“逆張り”経営論と3つの決断

「営業は足で稼ぐ」「社長は現場で背中を見せる」。そんな経営の常識に囚われていませんか?
今回、三重県で「原木しいたけ」と「介護事業」という異色の二軸を展開する、株式会社山武館の野呂純也氏に独自インタビューを行いました。メディアを殺到させるPR戦略から、社長が現場を去ることで組織を強くする荒療治まで。地方中小企業が生存競争を勝ち抜くための、驚きと納得の実践ノウハウをご紹介します。

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目次
  1. 1. なぜ、あなたの会社は「頑張っても」報われないのか?
    1. 1-1. 「足で稼ぐ」「背中で見せる」という呪縛
    2. 1-2. 椎茸農家×介護施設という「異色」の生存戦略
  2. 2. マーケティングの極意:「売り込み」は捨てろ。メディアに「発見」させよ
    1. 2-1. 営業マンを雇うコスト vs メディア露出のROI
    2. 2-2. メディアは「広告」ではなく「ネタ」に飢えている
    3. 2-3. 小さな実績を「権威性」に変えるわらしべ長者戦略
    4. 2-4. 事例:おかげ横丁「しいたけ棒」に見る一点突破
  3. 3. ブランディングの罠:「社長の思いつき」が事業を殺す
    1. 3-1. 最大の失敗作「しいたけを食べる老人ホーム」
    2. 3-2. 10年かかって気づいた「本当の顧客ニーズ」
    3. 3-3. 「捨てられる勇気」がV字回復を呼ぶ
  4. 4. 組織論の正解:社長が「自分の机」を捨てた日
    1. 4-1. 「社長がいるから社員が育たない」というパラドックス
    2. 4-2. 物理的遮断:社長のデスクを撤去する荒療治
    3. 4-3. 「監視」をやめて「承認」だけを残す
  5. 5. 経営者のマインドセット:「撤退」と「再起」を恐れない
    1. 5-1. コロナ禍での事業縮小は「敗北」だったのか
    2. 5-2. ゼロからの再構築と新たな挑戦
  6. 6. まとめ:今すぐ捨てるべき「3つの執着」
    1. 6-1. 成功を阻むのは「過去の成功体験」と「エゴ」
    2. 6-2. まずは「自社の常識」を疑うことから始めよう

「営業はするな」「社長は現場を去れ」。地方中小企業が生存競争を勝ち抜くための“逆張り”経営論と3つの決断

1. なぜ、あなたの会社は「頑張っても」報われないのか?

「良い商品を作れば、いつか必ずお客様に伝わる」
「社長自らが現場で汗を流せば、社員もついてくる」
「足を使った営業こそが、信頼を勝ち取る王道だ」

もしあなたが経営者で、これらの言葉を「絶対の正解」だと信じて疑わないのであれば、少し危険信号が灯っているかもしれません。もちろん、これらは美しい精神論ですが、リソース(人・モノ・金・時間)に限りのある中小企業が、この「常識」を真正面から実行しようとすると、往々にして疲弊し、ジリ貧に陥ります。

大手企業と同じ土俵で「体力勝負」を挑んでも、勝てるわけがありません。中小企業には中小企業の、地方には地方の、「弱者には弱者の戦い方」があるのです。

1-2. 椎茸農家×介護施設という「異色」の生存戦略

今回取材した野呂純也氏は、まさにその「戦い方」を体現している経営者です。

彼は、家業である「原木しいたけの生産・加工販売(野呂食品)」と、全く異業種である「サービス付き高齢者向け住宅の運営(株式会社山武館/にっこり山城)」という、一見すると脈絡のない2つの事業を展開しています。

  • なぜ、しいたけ農家が介護をやるのか?
  • なぜ、営業マンを雇わずに商品が売れるのか?
  • なぜ、社長が現場に行かないほうが組織が回るのか?

野呂氏の経営判断には、常に「常識へのアンチテーゼ(逆張り)」が存在します。 本記事で解説するのは、明日から使える小手先のテクニックではありません。経営者が無意識に抱え込んでいる「執着」を捨て、客観的な視点で自社を再構築するための「捨てる経営論」です。

読み終えた後、あなたの経営における「やるべきこと」と「やってはいけないこと」の境界線が、今までとは全く違って見えるはずです。

2. マーケティングの極意:「売り込み」は捨てろ。メディアに「発見」させよ

中小企業の悩みで常に上位を占めるのが「営業力不足」と「販路開拓」です。
「ウチの商品は最高なのに、知られていない。」そう嘆く経営者の多くは、解決策として「営業マンの採用」や「社長自身によるトップセールス」を選びがちです。
しかし、野呂氏はその道を選びませんでした。彼が実践したのは、「足で稼ぐ営業を捨て、メディアに稼がせる」という戦略です。

2-1. 営業マンを雇うコスト vs メディア露出のROI

考えてみてください。優秀な営業マンを1人雇うには、採用コストに加え、毎月数十万円の人件費と教育コストがかかります。それでも、1人の人間が1日に訪問できる件数はせいぜい10件程度。成約率はさらに低くなります。
一方で、テレビ番組で自社商品が取り上げられればどうなるでしょうか?たった数分間の放送で、数万、数十万人の視聴者に商品の魅力が届きます。そのコストパフォーマンス(ROI)の差は歴然です。野呂氏はここに一点集中しました。
メディアに取り上げられるのは運ではないのか?」そう思われるかもしれませんが、野呂氏の手法は極めて論理的で戦略的です。

2-2. メディアは「広告」ではなく「ネタ」に飢えている

多くの企業が広報活動で失敗するのは、「自社の商品を宣伝してください」というスタンスでプレスリリースを送ってしまうからです。メディア側からすれば、単なる宣伝は「広告枠を買ってください」で終わる話です。
野呂氏のアプローチは逆です。「テレビ局が今、どんな企画(ネタ)を欲しがっているか?」を徹底的にリサーチし、そこに自社商品を「企画のパーツ」として提供するのです。
例えば、テレビ局が「ご飯のお供選手権」という企画を準備している情報を掴むと、すかさず「三重県代表として、ウチのしいたけ商品はどうですか?」と売り込みます。番組制作者にとって、これは「売り込み」ではなく、番組を成立させるための「ありがたいネタ提供」になります。
この手法により、野呂氏は『めざましテレビ』などの全国区の人気番組に商品を送り込むことに成功しました。

2-3. 小さな実績を「権威性」に変えるわらしべ長者戦略

いきなり全国ネットを狙う必要はありません。野呂氏も最初は地方局の小さなコーナーからスタートしました。

  • 実績作り
  • ローカル局で紹介された実績を作る。
  • 権威付け
  • 「テレビで紹介されました」という事実を武器に、少し大きなメディアへアプローチする。
  • 逆指名
  • メディア露出が増えると、百貨店のバイヤーや大手スーパーから「取引したい」と声がかかる。

この段階に来れば、もう頭を下げて営業する必要はありません。相手から求められて商談が進むため、価格競争に巻き込まれることもなくなります。
「営業マンが汗をかいて売る」のではなく、「メディアという増幅装置を使って、向こうから買いに来てもらう仕組みを作る」。これこそが、リソースの少ない地方中小企業が目指すべきマーケティングのゴールです。

2-4. 事例:おかげ横丁「しいたけ棒」に見る一点突破

また、野呂氏は伊勢神宮・おかげ横丁での屋台販売でもユニークな戦略をとっています。それが名物「しいたけ棒」です。ここでは、複雑な能書きは一切語りません。ガスフライヤーでサクッと揚げ、旨みを閉じ込める」という調理法と、農家が発明した特製の「しいたけ塩」で味付けする。これだけのシンプルさで勝負しています。素材の良さを伝えるために、あえて調理法をシンプルにし、観光客がその場で楽しめる「体験」として提供する。「難しいことは語らず、圧倒的な『味の実力』と『体験』で勝負する。」これもまた、顧客視点に立った究極のマーケティングと言えるでしょう。

3. ブランディングの罠:「社長の思いつき」が事業を殺す

次に、野呂氏が運営する介護事業(株式会社山武館/にっこり山城)の事例を見ていきましょう。ここでは、マーケティングの成功とは対照的に、経営者が陥りがちな「ブランディングの失敗」と、そこからの起死回生のピボット(方向転換)が語られました。

3-1. 最大の失敗作「しいたけを食べる老人ホーム」

介護事業への参入当初、野呂氏が掲げたコンセプトは「しいたけを食べる老人ホーム」でした。
自社の強みである『しいたけ』と、新規事業の『介護』を掛け合わせれば、他にはない独自の施設ができるはずだ。」経営戦略の教科書的には、「強み×強み=差別化」というロジックは正しく見えます。しかし、これは完全に「経営者のエゴ(プロダクトアウト)」でしかありませんでした。
利用者やその家族が老人ホームに求めているのは、美味しいしいたけを食べることでしょうか? 違います。「安心・安全」や「適切なケア」です。「しいたけ」はあくまで付加価値の一つに過ぎず、施設の選択基準にはなり得ないのです。野呂氏は当時を振り返り、「誰もそんなものを望んでいなかった」と苦笑します。

3-2. 10年かかって気づいた「本当の顧客ニーズ」

「面白い」だけのコンセプトでは、命を預かる介護の現場で信頼を得ることはできません。事業は伸び悩み、野呂氏は現実を直視せざるを得なくなりました。
そこで彼が行った決断は、愛着ある「しいたけコンセプト」をメインから外し、「医療特化・看取り(みとり)対応」へ舵を切ることでした。

Before: しいたけが美味しい、ユニークな老人ホーム

After: 最期まで自分らしく暮らせる、医療と看取りに強い“第二の我が家”

高齢化が進む地域社会において、家族が最も不安に感じているのは「病状が悪化したら退去させられるのではないか」「最期をどこで迎えるのか」という点です。野呂氏はこの「Pain(切実な悩み)」に対し、訪問看護ステーションを自社で立ち上げ、医療連携を強化するという「Solution(解決策)」を提示しました。

3-3. 「捨てられる勇気」がV字回復を呼ぶ

このピボットは成功しました。現在、「にっこり山城」は満室でキャンセル待ちが出るほどの人気となっています。
ここからの学びは明白です。ブランディングとは、表面的なロゴやキャッチコピー、奇抜なコンセプトを作ることではありません。「顧客が抱える課題に対し、自社がどう役に立てるか」を突き詰め、信頼を積み重ねることです。もし今、あなたの会社の新規事業がうまくいっていないなら、一度自問してみてください。
「それは顧客が本当に求めているものか? それとも、社長である自分がやりたいだけの“思いつき”ではないか?」自分のアイデアを否定し、捨てる勇気を持てた時、事業は本当の意味で顧客の方を向くことができるのです。

4. 組織論の正解:社長が「自分の机」を捨てた日

今回のインタビューで最も衝撃的であり、かつ多くの経営者に参考になるのが、野呂氏の実践した組織改革です。中小企業経営者の多くが、「社員が育たない」「幹部が頼りない」という悩みを抱えています。そして、その解決策として「俺がもっと現場に入って教えなければ」と、さらに現場へコミットしようとします。
しかし、野呂氏は真逆の行動をとりました。「社長である自分が現場にいるから、社員が育たないのだ」と気づき、物理的に現場から姿を消したのです。

4-1. 「社長がいるから社員が育たない」というパラドックス

野呂氏は、介護施設の運営がうまくいかない原因を分析する中で、ある事実に直面します。社長が近くにいれば、トラブルが起きた時に社員はすぐに社長を見ます。「どうしましょうか?」と指示を仰ぎます。社長も良かれと思って「こうしなさい」と指示を出します。
この繰り返しが、社員から「自分で考えて決断する機会」を奪い、思考停止の「指示待ち人間」を量産していたのです。優秀で面倒見の良い社長ほど、この罠に陥ります。

4-2. 物理的遮断:社長のデスクを撤去する荒療治

「これはマインドセットの問題ではない。物理的な環境の問題だ」そう考えた野呂氏は、介護施設「にっこり山城」の事務所にあった自分のデスクを撤去しました。そして、車で移動しなければならない別の場所(しいたけ事業の事務所)へ拠点を移し、介護の現場には「席がない」状態を作り出したのです。
さらに、現場へ行く頻度も週に数回へ減らしました。行ったとしても、業務への口出しは一切せず、「元気か?」「ありがとうな」とニコニコして挨拶をするだけに留めました。
これは、経営者にとっては恐怖です。「現場が回らなくなるのではないか」「ミスが起きるのではないか」という不安との戦いです。しかし、これをやらなければ組織は変わりません。

4-3. 「監視」をやめて「承認」だけを残す

社長がいなくなった現場では、当然ながら混乱も起きます。しかし、幹部たちは「もう社長はいない。自分たちで決めるしかない」と腹を括らざるを得なくなりました。

  • 覚悟を決める:社長不在の環境を作る。
  • 権限委譲: 失敗も含めて幹部に任せる。
  • 心理的安全性: 社長が顔を出した時は「監視」ではなく「承認」を伝える。

このプロセスを経ることで、野呂氏の組織は劇的に変わりました。幹部が自律的に動き、利用者や家族との信頼関係を築き、社長がいなくても(むしろいないほうが)スムーズに現場が回るようになったのです。
「組織を強くしたければ、社長は机を捨てろ」これは比喩ではなく、経営者が自身の執着(マイクロマネジメント欲求)を手放すための、最も効果的なアクションプランと言えるでしょう。

5. 経営者のマインドセット:「撤退」と「再起」を恐れない

最後に、経営者としての野呂氏の「マインドセット」に触れておきます。順風満帆に見える野呂氏ですが、コロナ禍においては主力であるしいたけ事業を大幅に縮小するという苦渋の決断を下しました。経営者として、これほど辛いことはありません。

5-1. コロナ禍での事業縮小は「敗北」だったのか

イベントの中止、観光客の激減。売り上げが蒸発する中で、野呂氏は原木の仕入れを止め、従業員を解雇するという痛みを伴う判断をしました。しかし、これは「敗北」ではなく、会社を存続させるための「戦略的撤退」でした。無理に続けて倒産してしまえば、再起のチャンスすら失われます。「倒産させない」ことこそが、経営者の最大の責任です。

5-2. ゼロからの再構築と新たな挑戦

現在、野呂氏は再び攻勢に転じています。一度止めてしまった原木栽培を再開するには時間がかかりますが、地道に生産体制を戻しつつ、新たな武器として「SNS活用」にも力を入れています。
かつてテレビで一世を風靡した成功体験に固執することなく、InstagramやYouTubeといった現代のツールを学び直し、若手スタッフやスポットワーカー(タイミーなど)を活用しながら、組織を再構築しています。
「良い時もあれば、悪い時もある。その都度、組織を作り直せばいい」野呂氏の言葉からは、変化を恐れず、常に「現在地」を客観視しながら未来を描く、経営者としての強靭な足腰が感じられます。

6. まとめ:今すぐ捨てるべき「3つの執着」

6-1. 成功を阻むのは「過去の成功体験」と「エゴ」

野呂純也氏の事例から私たちが学べるのは、執着を手放す強さです。経営がうまくいかない時、その原因は外部環境だけではありません。多くの場合、経営者自身の「古い常識」や「成功体験への固執」がボトルネックになっています。

【地方中小企業が今すぐ捨てるべき3つの執着】

  • 足で稼ぐ営業」への執着⇒ 捨てて、メディアや仕組みに稼がせる視点を持つ。
  • 「自分のアイデア・やり方」への執着⇒ 捨てて、顧客の「Pain(痛み)」と真摯に向き合う。
  • 「現場での権力(マイクロマネジメント)」への執着⇒ 捨てて、社員の自立を信じ、任せる勇気を持つ。

6-2. まずは「自社の常識」を疑うことから始めよう

あなたの会社の「当たり前」は、本当に正解でしょうか?
時には社長自らが「自分の机」を捨てるような、常識外れの決断が必要です。それができる経営者だけが、変化の激しい時代を生き残り、未来を描くことができるのです。もし今、行き詰まりを感じているなら、まずは何か一つ、これまでのやり方を「捨てて」みてはいかがでしょうか。そこから、新しい景色が見えてくるはずです。

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